ヤマスグリ(山酸塊)

まとまった文章を載せるために利用中 Twitter: @yamasuguri

患者としての医師から:covid-19の持続性症状に立ち向かうためのマニフェスト

BMJに公表された、covid-19の患者になった医師38人による共同声明の急ぎ翻訳

 

原文:

From doctors as patients: a manifesto for tackling persisting symptoms of covid-19 | The BMJ

 

 

患者としての医師から:covid-19の持続性症状に立ち向かうためのマニフェスト

 

我々は、covid-19の疑い例または確定例の持続性症状に苦しむ医師の一団としてこれを書く。この疾患の個人的経験から得た我々の理解と、医師としての我々の見解の両方の共有を目的とする。

 

この問題(註:コロナ禍)に立ち向かうためには、政治家、医療従事者、公衆衛生学者、科学者、そして社会の間での協力が必要だろう。そこで、covid-19の持続性症状に苦しむすべての人にとって最良の結果を達成するために用いるべき原則を、以下に挙げる。

 

●研究と調査ーーcovid-19の持続性症状に対しては科学的方法論を用いて対処すべきであり、バイアスがあってはいけない。症状が起きている人の数を計測する必要がある

 

このウイルスの影響については、疫学、病態生理、管理に注意を徹底的に払いながら、他のすべての疾患の場合と同じように研究すべきである。「我々は、covid-19についてまだほとんど知らないが、相手を測らずして闘うのは不可能だというのは、よく分かっている。」この疾患の全体像を完全に掴み、covid-19の表現型の姿を正確に構築するには、入院していない者や検査を受けていない者も含めた研究と調査が必要である。「covid-19から回復」の明確な定義が必要である。今後のエビデンスの到来を待ちながらも、医師たちは「他に利用できるものがない不完全なデータの限界をよく弁えながら、不確実性と透明性について誠実」であらねばならない。その意味するところは、長期症状が決して少なくない人々に対して相当に大きな影響を及ぼすという、現在浮かび上がつつある現実の姿を受け容れ、測定すべき転帰は死亡だけではないと理解することであると、我々は主張する。今後はcovid-19の慢性症状に関する研究が必須であると、我々は主張する。これら持続性症状を惹き起こす根本の生物学的メカニズムが解明できないと、リスク因子を特定する機会も、現在および今後の感染者の慢性化を防ぎ、治療法を発見する機会も失う危険がある。

 

●医療の提供ーー個々人が呈する症状に合わせて時期を逃さずに提供する必要があり、個々人の病態の精査と加療、さらに機能回復は欠かせない。

 

通常の状況なら患者の多くが、重態の時期の極めて対応が難しい症状を自宅で管理するのではなく、入院したであろう。入院患者と非入院患者とで病態に差があると決めつけてはいけない。なんらかのアクティブリハビリを始めるには、その前に、適切な検査により器質病変を精査して管理しておく必要がある。それでようやく個々人に合わせたリハビリ処方を作ることが可能になる。このことは、リハビリ医学専門医のLynne Turner-Stokes教授が、最近の王立医学協会ウェブセミナーで警告している。「患者に運動させるに先立ち、それが安全に行なえるかどうかの確認が重要だ。心臓および呼吸器の機能を正しく評価する必要がある。また、ゆっくりと、行きつ戻りつしながら事を進める必要がある。」covid-19罹患患者100人(67人は未入院)の心臓MRI撮像を行なった最近のJAMA掲載研究によれば、「78人(78%)に心臓病変があり、60人(60%)が心筋炎を起こしている」ことが判った。この論文の著者は、「ほとんど在宅で回復に努めた患者にも炎症性心臓病変が高頻度に見られ、その重症度と範囲については入院患者群と差がなかった」と述べている。

 

ワンストップ医療を確立することで、covid-19の後遺症を特定して管理する医師陣の間にパターン認識力が開発され経験が積み上がっていくだろう。こうした診療所は、covid-19の多系統(疾患)性に対応するものでなければならず、既知のcovid-19合併症の有無を確認するのに、臨床総説で適応とされた適切な検査が使える集学的チームが不可欠である。

 

汎用(one size fits all)のオンライン・リハビリテーション・サービスに頼るのは、患者の病態が未発見のままだと患者を深刻に傷害する危険があり、医師にとっては、現在、我々の臨床現場で姿を現しつつあるこのウイルスの後遺症に関して、経験を積む機会を失することになる。

 

 

covid-19への対応に負荷漸増法による運動療法を取り入れることを警告しているNIHやCare Excellenceの声明のように、現行のガイドラインが公表された場合には、最前線の医師と速やかに意思疎通を図らねばならない。

 

 

●患者の関与ーー医療提供の運用や研究デザインの策定には患者も加わっていなければならない

 

「わたし抜きで決めるな」ーー別の疾患から得られたこの教訓は、もっとも疾患に冒されている者の関与が重要であることを示している。covid-19の持続性症状を有している患者は、解決の道の探求において大いに貢献する。研究デザインと医療提供の運用の中に患者を関与させることは、確実に患者の見方を傾聴することになり、これらの研究と医療提供の開発を至適化するだろう。これは患者グループの代表という形式でもいいかもしれない。そこには政策立案者、研究者、医療界重鎮との連絡を行なう本レター(この文章のこと)の署名者が入っていてもよい。

 

●医療の利用ーー運用される医療提供は、検査結果陰性の者に不公平な待遇差があってはならず、臨床的診断だけでも、すべての適切な医療提供が利用できるようにすべきだ

 

パンデミック初期には、十分な検査を広範囲に行き渡っていなかった。活動性covid-19感染の検査(例えば、RT-PCR検査)のタイミングは検査性能に影響するし、検査はもっとも理想的な時期に実施した場合でも、偽陰性のリスクが相当につきまとう。抗原検査は、その有用性の検証が主に入院患者で行われており、疾患初期での感度は低いことが判っている。疾患経過のもっと後での検査に関するデータも少数あるが、偽陰性が多いようである。人によっては、先立つ検査で陽性であっても血清陽転しない者もいる。したがって、医療サービスの利用の可否や、従業員へのcovid-19罹病特別給付金の可否の判断基準として検査結果陽性に拘泥するのは、covid-19の臨床診断の文脈において容認できない。

 

我々は、covid-19の持続性症状の問題がどんどん注目されて欲しいと思っている。以上の原則は、この問題に取り組もうとする政治家、科学者、医師にとって自分たちの経験を深め、専門家としての努力を知らしめ、研究と医療の改善を導き、罹患者と社会全体への益となる指針として、機能できる。

(了)